【講評】山口幹文

■1位 片野聡
総合的にバランスが取れており安定感があります。
惜しいのは音色がやや硬めであるということと、フレーズの処理、特に最後の切り方が強すぎて荒い印象が残ってしまったこと。
またビブラートのかけ方にももう一工夫あればと思いました。
これらを乗り越えれば、申し分のない演奏となるはずです。
自由曲はニュアンスに富んでノリもよく、素晴らしいレベルに仕上がっていました。

 

■2位 津久井香殊子
笛の音はまろやかで心地良いものでした。
収録場所のせいかリバーブが効きすぎているように感じました。
若干音程の低い音があって気になりましたが、流れが伸びやかで気持ちの良い演奏でした。
オリジナルの自由曲は笛の魅力を生かした秀作だが、やはりリバーブが効きすぎたせいで細かな表現が分かり難く、また曲の途中の間が長すぎるような印象がありました。
今後に期待します。

 

■3位 井上さと子
芯のあるしっかりとした音色は素晴らしいのですが、録音がピークを越えているせいか高音にが荒い感じに聞こえました。
そのせいもあってか、技術的には完成度が高いのに、全体的に強すぎて硬い感じになってしまいました。
自由曲は情感溢れる素晴らしい仕上がりでした。
惜しむらくは途中のカウンター(対旋律)の音量が大きすぎて、アレンジの面白さが半減してしまったことです。

 

■オリジナル作品演奏賞 中嶋竜一(なかじい)
素朴な音色でありながら大自然の豊かさと力強さ、その大自然に対する思いをありのままに表現できています。
篠笛ならではの魅力を感じることができました。

■最年小(賞) 原田遥人
この若さでこの技術と表現力には驚きました。かなり将来有望だと思います。
「一音入魂」を貫き通し、いろいろな曲にチャレンジしてみて下さい。

■コンセプト賞 Karura Trio
一見普通の和楽器バンドのようですが、何度聴いても妙にじわじわくる不思議なトリオ。
緩いヴィジュアルに計算された音楽、といった面白さでしょうか。

 

【総評】
まずは皆さんがご自分の思いを笛に託し、キャリアに関わらず個性豊かな演奏をして下さったお陰で、私としては楽しく審査を進めることができました。

演奏というものは様々な要因で成り立ちますが、上達の方法を極く大雑把にいえば、自分の目指す音楽と自分の出している音との差異を知り、その隙間を縮めていくことだと思います。
そのためには音楽的感性とそれを具体化する技術が必要となります。
これは両輪の輪の如く引き離せないものですが、ここではあえて技術的なことを取り上げます。

まずこのコンテスト独自の難しさですが、収録の仕方によって伴奏のバランスや笛の音質が低下してしまった例が少なからずあり、大変残念に感じました。
予算や技術の問題もあるでしょうが、収録場所や機材との距離や方向を工夫することで質の向上を図ることができます。ぜひもう一手間かけてみて下さい。

演奏の内容で多く見受けられたのが、「音を出して後は指任せ」というパターンでした。
課題曲の指定されたフレーズやテンポの中でも強弱や間の取り方、そしてフレーズの扱い方に気を使えば更に表現が広がり、楽曲がより充実していくこはずです。
自由曲でも同様のことが言えますが、別人のように伸び伸びとした演奏と、選曲の面白さやオリジナルの素晴らしさで得点を挽回するケースもありました。
自由曲での技術や表現力を、ぜひ課題曲でも十分に発揮できるようにして下さい。

和食が素材を大切にするように、邦楽においても素材となる音そのものが重要であると思います。
呼吸や口の形の工夫といった基本稽古を忘れずに、常に豊かな音楽を心に描き、結果を急がず更なる上達を目指して頑張って下さい。

皆様、お疲れ様でした。

山口幹文